陽だまりの林檎姫

また少し近付けた距離もまやかしの様に消し去ってしまう事実を思い知らされた。

北都は自分から歩み寄ってはくれない。

傍に居たいなら、近付きたいのなら栢木の方から進まないと離れていくだけだ。

距離が一定でもこのままでいいとさえ思えていた、だけど栢木の抱えているものがそれを危うくする。

だから知ってしまったのだ。

栢木は北都を好きになっているのだと。

「まあ多少、先生に入れ込んでる感がありますけどね。」

いつか聞いたタクミの言葉が思い出される。

どうなんだろうと自分の本心を探している場合ではなかった、ただ恥ずかしくて目を逸らしていただけ。

「すみません。我儘…っ申し訳ないです。」

一方的な思いで暴走するなんて自分もキリュウと変わらないではないか。

好きな人の傍に居たいと願い、それを強行しようとした。

北都の気持ちを何も考えていなかったのだ。

それはなんという我儘だろうとただ申し訳なく思い、栢木はとうとう拳を額に当てて俯いてしまった。

恥ずかしい。

必死になり過ぎた結果、守るべき相手を振り回してしまった。

「お前の事情は分かっているつもりだ。」

感情の読めない声は栢木の涙を誘う。

「今日だってすぐに戻れば…お前が街中に来なくて済むと思ったからだ。会社へ行くのとは違い街中を歩くのは…控えた方がいいと判断した。」

言葉を選んでいるのあろうか、いつもとは違いたどたどしく作る文章に北都の感情が見え隠れした。

「名前も、なるべく口にしない方がいいと思って…近くにいないよう気を付けた。」

自分でも何を言おうとしているのか分からなくなって恥ずかしくなる。

屋敷に戻って栢木がいないと分かった時は何を馬鹿なことをしているんだと腹が立った。