仕事が出来、確かな地位を築き、整った顔立ちで物腰も柔らかい、さらには独身ともなればトキメかない女性は皆無であろう。

「ふふ。罪作りな男性も困ったものですね。」

「おや、どなたのことでしょうか。マリーさん。」

「我が屋敷の娘たちにはどうぞお手柔らかに願います。」

前を歩くマリーは僅かに顔を向けただけで軽く会釈をし、意図していることが伝わったのか三浦は眉を上げて肩を竦めてみせた。

どうやら腹の内は黒いらしい。

一方、来客の報せは北都にも届いており栢木が書斎へ訪れていた。

「応接間で三浦さんがお待ちです。」

栢木の言葉に視線をチラリと向けただけで立ち上がり部屋から出る支度をする。

かけられていた上着に袖を通すとすっかり余所行き仕様の相麻北都が出来上がった。

その様はまるで非の打ち所がない紳士だ。

中身を見ないで言うならば北都の外見は整っていて異性から好まれるような存在であることは間違いない。

研究職だからだろうか肌の色の白さが黒髪によって映え、ふわりと表情を和らげればその爽やかさに幾人もの女性が夢中になったと聞いた。

ミライが品のない笑みを浮かべて話した内容はここからも繋がっていたのだ。

社交界に嫌々出席したとしても通常運転の不愛想を貫くほど北都も馬鹿ではない。

普段とは真逆の愛想を振りまき様々な女性に好印象を持たれてしまったのだろう、その中の情熱的な令嬢が屋敷に押しかけてきてしまったのだ。

北都は研究中ということでお引き取り願うこと数回、さすがに彼女も諦めたようだが対応した使用人の心労は計り知れなかったという。

目付きの悪い屋敷の主も笑みさえ浮かべれば魅力的な男性になる、つまりこれから見れるであろう三浦との並びは世の女性陣の目の保養になる素晴らしき空間に仕上がるのだ。

重ねて言うが中身を無視すればの話である。