「ううん。役に立ってない自分が嫌なだけ。」

北都の仕事は新しい薬を開発する事、以前に彼は偉大なる新薬を開発して多くの命を救った。

相麻製薬の躍進に大いに貢献したのは言うまでもないことだ。

栢木の仕事はそんな北都のサポートと、あらゆる危害から彼を守ることなのだけれど全く出来ていない。

頂いている給料に見合った働きなど出来ている筈がないのだ。

「栢木って根性あるよね。今まで何人も来ては辞めていったけど、皆不満たらたらだったよ?ねえ、マリーさん。」

思い出すように笑ってミライはまた手際よく筋を取った。

ミライのいう“今までの人”の話は栢木も何度か聞いたことはある。

「お父様である相麻千秋社長が北都さんの傍を支える為にって雇った人たちのことでしょ?助手とか…。」

「秘書は2回、助手は5回、付き人は1回、他にも色んな名前を付けては何人ものお目付け役が屋敷に来たわねえ。」

「社長の差し金じゃないけど恋人候補だって言う女性も何人か押しかけてきましたよね!マリーさん!」

本邸ではなく一人で別邸に住む北都を心配した社長が北都を身近で支える人材をと雇った人たち。

マリーの言う様に色々な形を変えて側近クラスを雇用しては皆早々に辞めていった。

どれも長くは続かず北都の態度に対しての不満をひたすらこぼしては去っていく。

「尋ねてきた女性陣は貴族のお嬢様なんだけど~北都さんに全く相手にされないもんだから酷く荒れちゃって~。」

「ミライ、品のない。」

当時の状況を思い出したミライは手をひらひらさせながら口を大きく開けて笑い始めた。

実際に栢木はその現場を見ていないがミライの様子や言葉だけで簡単に想像がついて苦笑いをする。

「栢木は今までで一番長く続いているし、やる気もあるようだから期待しているのよ。」

穏やかな笑みを向けてくれるマリーに栢木も続けて微笑みを返した。

マリーの言葉は当たっている。

もやもやとした気持ちがあるのは確かだがまだまだ向上心は失っていないのだ。