陽だまりの林檎姫

それを示す為にも北都から決して目を逸らさずに向き合う、これは受けとめる覚悟だ。

「…発病したのは数年後の話だ。体に違和感を覚えた瞬間に母の姿を思い出した。同じ病にかかったんだと悟ったよ。特にこの屋敷でやることも無かった俺はずっと本ばかり読んでいたし、どうせ死ぬんだからと薬を作り始めたのが始まりだ。」

「薬って…そんな簡単に作れるものなんですか?」

「さあな。ただ俺は母が医者だったし、家にも薬学の本が並んで薬草についても母からよく聞かされていたから人よりは入りやすかったんだと思う。社長も元は薬学者だからかそれに関する本がこの屋敷には揃っていたしな。」

そうだったのか、そんな思いを込めて栢木は目を見開き大きく息を吸い込んだ。

「母が死ぬ前から俺は既に施設に入れられていて、病院に見舞うことで面会が出来ているような状態だった。伝染病ではなかったが、遺伝する確率があると心配したんだろうな。母からある日ノートを渡された。」

封筒に入れられたノートは、開く前から楽しいことが書かれている訳ではないのだと子供ながらに北都は悟ったらしい。

そこには初期症状から現状に至るまでの自分の体の変化が事細かく記されていた。

単発のものもあれば長引く症状まで、最初は目を通すのが怖かったが母親が死んで数年後にやっと見ることが出来たと北都は続ける。

そしてその後に自分の体に似た症状が起こっていると気付いたのだ。

「おそらく母は思い出しながらも超初期症状から書き記してくれていたんだろう。少しでも体に異変があればすぐに医者にかかれと言われていた。それが意味のないことだと分かっていても俺にそう言い続けていた。」

「どうして…意味のないことだと?」

久しぶりに聞いた栢木の声に1人で振り返っているのではないと再認識するが、それと共に答えを見つけて苦笑いをする。

それこそが理由だと。

「治療薬がないからだ。」

北都のその言葉に栢木は口を固く閉じた。

治療薬が無い病気であれば治すことが出来ない、つまり行く末はもう限られているということなのだ。

ああ、だからか。

栢木の中で北都の言葉が思い出され納得の息が漏れた。