陽だまりの林檎姫

向き合う形というよりかは、机に向かう北都を栢木が横から眺めているような椅子の配置に2人の視線はなかなか合わなかった。

いや、例え向き合う形だったとしても同じ事だったろう。

北都は遠い目をしながら記憶を取り出して話しているからだ。

栢木はそれをただ一瞬の表情も逃さないように見つめていた。

だから彼の目が光を閉ざす瞬間も逃さなかったのだ。

「実験台に困らなかったからだ。」

何故か強い重みを感じた言葉に栢木は声を詰まらせる。

そして北都の表情も冷たいものに変わり今は懐かしい勤め始めによく見ていた拒絶を表す表情になっていたのだ。

何か物騒な響きにも思えて喉の辺りが苦しくなる。

しかしそれも束の間、栢木の強張った表情に気付いた北都は小さく吹きだして笑ったことでゆるくなった。

「変な想像してるな。実験台というのは俺の事だ。」

「えっ?」

「毒が全身を侵食する、そんな病にかかっていた。母もその病に侵されて死んだ。相麻社長に養子にしてもらう前の話だ。」

思いがけない告白に栢木は両手で口を覆い驚きを隠せなかった。

薬のことだけを教えてもらえるのだと思っていたが、それ以上の踏み込んだ内容に動揺する気持ちが抑えられない。

言いようのない苦しみから解き放たれたと思った瞬間にそれ以上の同期が襲ってきたのだ。

「…続けるか?」

聞いてしまっていいのだろうか。

おそらく北都の全てになるだろう話を自分が聞いてしまっていいのだろうかと栢木の目が泳ぐ。

しかし。

「…はい。聞かせてください。」

話す覚悟を決めた北都に向き合えるのは今しかないと覚悟を決めた。