本気なんだって葉ちゃんの目を見れば今のあたしだってわかる。
そんな葉ちゃんを見て、あたしももう大人になったんだからあの頃みたいに投げ出すんじゃなくてきちんと話し合わなくちゃと思える。

「あたしも葉ちゃんに会ったとき、あの頃に戻ったかと思うくらいドキドキしたよ。久しぶりに葉ちゃんって呼んだなーとか、よく夏芽ちゃんに嫉妬したなーとか、相変わらず葉ちゃんはカッコイイなぁって思った。タクシーに乗ってからは一人でドキドキしちゃってさ」

あたしが笑うと葉ちゃんも恥ずかしそうに笑う。

「あたしは何も変わってないし、葉ちゃんが好きだった気持ちに嘘はない。でも今のあたしが5年前と同じように葉ちゃんを好きになれるかっていうとどうかわかんない」

それはわかってる、と言う葉ちゃんはビールを飲んで溜息を吐いた。

「こうして互いの気持ちを話し合えることが大人になったってことなのかな、と思ったら、あの頃はすごく子供だったね」
「まぁな…たった5年しか経ってないのにな」
「うん、そうだね」

なんだか張り詰めていた空気が優しくなって、それからは互いの仕事の話だったり友達の話、高校の友達とまだ繋がってるのかとかあの子は結婚して子供がいるよ、なんて話をたくさんした。
平日なのに日が変わる前まで話していて本当に楽しい時間が流れた。

「もうこんな時間だね、帰らないと」

そうだな、とドアを開けた葉ちゃんがタクシーを呼んでくれた。

変わらない雰囲気のままタクシーが来て、お会計もしてマスターにお礼を言って外に出る。
そして何故かあたしだけタクシーに乗ることになった。

「なんで?実家なんでしょ?一緒に乗っていけばいいのに」
「いや、ちょっと考えたいからさ」
「考える?」
「そ、これからのこと」

そう言う葉ちゃんは今日一番の優しい顔であたしの頬に触れた。

「今日話してみて、やっぱり未央だなって思った。俺の知ってる未央と変わらないし、俺の気持ちも変わらなかった。だから今日は一緒に帰らない。また明日からあの頃の俺と同じように相手して」

その言葉のあと数秒間目が合って、そして同時に笑いあった。

「気が向いたら返信するよ」
「気長に待ってるよ」

そう言ってあたしだけタクシーに乗り込んだ。

今日はすごく楽しかった。
あたしも葉介が思うように話していて昔の葉介と何も変わらないと思ってた。
それは前回の時も思ったけど、今は5年前よりもナチュラルに話せる。
今の方が気持ちも楽で気が知れてるから何でも話せる。

これを高校生の時にするのは無理な話で、居心地が悪かったのはきっと高校生だったからだと気付いた。

これからどうやって葉介との距離が変わっていくのかあたしにもきっと葉介にもわからない。
でもきっといい関係に変わっていく。
色んなことを考えていたけど、ちゃんと気持ちをさらけ出したらなんだかそんな気がした。



END.