「終わった…」

それから2時間後、処理を終えて部長のデスクに資料を置いて帰る準備をする。

今日も疲れた。
帰りはマスターに会いにお店寄って帰ろうかな、と思いながら部署を出る。

エレベーターに乗って携帯を取り出すとメールが入っていた。
送信者はまだ登録されていない彼から。
この疲れた状態でこのメールを開くべきがやめるべきか悩みながら結局開かず直そうと決め、会社を出ると「未央」と声を掛けられた。

携帯片手にバッグに直そうとしていた手を止め、足も止めた。
視線の先には彼がいる。

「…どうしたの」
「どうしたのってメール読んでない?てか、それ直そうとしてる?」

間違いなく直そうとしてる手を止めて返事に困ってると「その感じはメールも読んでないな」と笑った。

「メール?」
「そう。昼も送ったし、夕方も送った」
「あー…忙しくて、さっきまで残業してたの」
「昼のメールは?」
「えーっと、見…てないね」

嘘をついた。
彼からの“会いたい”の四文字を見て見ぬふりをした。
そしたら何故かここにいた。

どうしよう…と思っていたら「ま、いいや。飯行こう」と傍まで来て、あたしの背中を押し歩かせた。

「どこに行くの?」
「あの店」
「あの店?」
「そう、俺らが再会した店。行きつけなんだろ?マスターに聞いた」

マスター喋っちゃったか…とタクシーを停めた。

「え?歩いて行かないの?」
「もう停めたから乗って」

タクシーに乗り込み、徒歩10分の道のりを走る。
車内で会話はない。
気まずい空気が流れてるような気がするのはあたしだけなのか。
窓から見える彼の横顔は昔と変わらず綺麗だった。