「俺さ、ちゃんと話したくて」
「なにを?」
「バカらしいけどさ、あの時のこと…5年前のこと、ちゃんと話したくて」

今更じゃないの?と思う反面、本当はどう思っていたんだろうと気になる自分がいる。

葉介が話したいこと。
あの日の弁解なのか、それとも何も言わなかった理由なのか。

わからないけど、今聞いたところで今はもう5年も経っていて、あの時に戻れるわけじゃない。

「未央」

名前を呼ばれて心が反応する。
なんだか5年前の自分に戻りかけているような気がしてドキドキする。

「…ちゃんと話すって言ったってもう5年も経ってる、よな。今の無かったことにして」

緊張しているのが私にも伝わってくる。
普段の葉介からはあまり見ることの出来ない姿。
これもあの時は私の特権だと思ってた。
でももう今は違う。

「未央、彼氏いるのか?」

また何の質問してくるのかと思ったら。
思わず笑ってしまうとバツが悪そうな顔をした。
その顔も可愛いと思ってた。

「いないよ。葉ちゃんこそ彼女の1人や2人はいるんじゃないの?」

笑いながら言うと「失礼なこと言うなよ」と照れながら答えた。

なんだか5年前の私たちに戻ったみたいでくすぐったい。
こういう時もあったんだなと思えて、ますます過去の思い出が呼び起こされる。

「未央だけだったな、俺のこと“葉ちゃん”って呼んでたの」

懐かしそうに、でも恥ずかしそうに笑う。
いつも私が「葉ちゃん」と呼べば、恥ずかしそうに「ちゃん付けで呼ぶな」と怒られた。

「可愛かったよ」
「誰が」
「照れてる葉ちゃんが」

口元に手を当て、照れを隠そうとしているところも変わってない。
私が知ってる葉ちゃんは今もここにいる。
それだけでなんだか嬉しい。