「それって俺がマジメになれば付き合ってくれるってこと?」
またわけわかんないこと言う蓮に俯きながらも首を左右に振った。
「俺、マジメなんだけど。てか、俺もずっと振られ続けてるんだけどね」
ジャリ、と砂をこする音が近付いて、目の前に蓮が座ったのが気配でわかった。
誰に振られたのよって思いながら顔は上げずに溢れ続ける涙を堪えようとした。
「お前、俺が彼女作っても何も言わねぇじゃん。俺が何も思わずにただ報告しに行ってたと思ってたわけ?俺は俺で少しの期待を抱きながら毎回行ってたんだけど」
期待とかあたしにどんな言葉を求めてたんだって話だけど、そんなこと一度も顔に出さなかった。
普通に教室に入ってきて「彼女できた!」って笑いながら報告してきたくせに。
「俺はお前が少しでも嫌な顔したらやめるつもりだったけど一度もそんな顔してくれないし。ただなんかの拍子で固まったり顔赤くしたりするから、その度にちょっと期待したりしてたけど。遠藤のことは賭けだった。俺のことをどう思ってるか聞くチャンスだったし、これが最後だって思ってた」
「・・・」
「なぁ、まだわかんない?」
蹲って泣くあたしの手に触れる。
離そうと手を引くけど握られた手は離れない。
そんなこと今このタイミングで言われて期待させてどうするっていうの。
手を握られて思わず泣き止んでしまった今のあたしをどう誤魔化せばいいの。
好きだとも言われてないのに期待だけしてまた泣くの?
「真実、俺のことどう思ってんの?好きじゃないの?嫌いなわけじゃないだろ?てか、好きだろ?」
なんでそんな上から偉そうに言えるのかわかんない。
いつだってそう。
遠藤くんの時だって自信満々だった。
それが蓮だといえばそうだけど、これはもう泣いてしまったあたしの負けだと思う。
蓮はあたしが蓮を好きなことに確信を持ってる。
強がりや最後の賭けなんかでこんなに言い切ることなんて出来ないはず。
そう信じたい。
「真実」
「…なによ」
「言えよ、ちゃんと。さっきみたいに言え」
「なんで偉そうなのよ!」
「偉そう?これが俺でしょ。やっぱ俺んちだなー」
「行かないってば!」
手を握って立たそうとする蓮を止めようと勢いよくあげた視線の先、というか目の前には蓮の顔。
ヤバイと思った時には両手で頬を掴まれてた。
「泣き顔も可愛いな」
「ちょっ、と離して!」
「ヤダ」
「離してよ!」
「ん~、可愛いからヤダ」
そのまま蓮の顔が近付いてきてまぶたにキス。
思わず目を瞑ったけど、ゆっくり開けた視界には優しく笑った蓮がいる。
「なぁ、俺んちで話つけない?」
「絶対イヤ!!」
「じゃあ、真実んちでもいい」
「イヤだって言ってるでしょ?!」
頬から手が離れて背中に回った手。
しゃがんだままあたしを優しく抱きしめてくれる。
頬に蓮の肩が触れて、蓮の香水がかすかに匂う。
抱きしめられたことよりもそれにドキドキする自分を恨む。
きっと蓮からは逃げられない。
あたしはこんな蓮でも嫌いになれない。
詳しいことは話をつけなきゃわからないけど、きっと蓮のいいように転がされていつものあたしに戻るんだろう。
それでも“期待”してたらしい蓮のことを少しは信用してみようかと思ってしまうあたしはきっと痛いめ見ちゃうことになるんだろう。
END.



