あたしの言葉を全部遮って一方的に喋って、またあたしを抱きしめて何様なんだって思うけど、それが不思議と嫌じゃないことに気付いた。
むしろ、離さないでいてほしいと思うくらい居心地良くて、気付いたらユーイチの背中に両手を回してた。

その理由はイマイチわかんない。
あたしもユーイチが好きなのか、ただ居心地が良いだけなのか、はっきりしないけど、離れていって寂しく感じるのは、もしかしたらソラ姉以上なのかもしれない、と思った。

「あたし、ユーイチが好きなのかな?わかんないけど」
「わかんないってなんだよ」


だって、わかんないもんはわかんない。
あたしだってここ数年は恋愛ご無沙汰だったんだもん。
感覚戻せって言われたってすぐには戻らない。
それに、今はドキドキとか一切ないし、“好きかも”って口にしてもドキドキしないし。

もしかしたら、そうかもしんないけど、そうじゃないかもしんない。
今のあたしにも自分の気持ちがイマイチはっきりしない。

「でもね、ソラ姉が言ったから」

ソラ姉が電話の最後に言った言葉がすごく残ってる。

《ユーイチと話し合って、これから本当に一人暮らしをするのか決めて。それと、“自分の気持ちに正直にね”》

ソラ姉の言ったことがこういうことなのかはわからない。
でも、ユーイチに抱きしめられて安心するし、離れていってしまうのは悲しい。

それが“恋”なのか、はたまた“情”なのかわからないけど、今は傍にいてほしいと思う。

「ユーイチがこの部屋から出たら寂しい」

これは間違いじゃない。
これは本音。

「なら、ずっと俺の傍にいればいい」
「ずっと?」
「ずっと」
「迷惑じゃ、」
「だから、何回言わすの」

もうヤダ…と呟くユーイチの肩に顎を置いて、回した手で頭を撫でる。

茶色の猫っ毛にコロンの匂い。
いつも泣きつかれて眠っていたときに微かに匂う香りはこれだったんだとわかるとニヤける。
本当にあたしの傍でいてくれたんだと嬉しくなった。

「あれ?」

なんだかわかんないけど、急に心臓が早くなる。
これはどういうことなんだろう。

「なに」

相変わらずの素っ気ない返事が耳元で聞こえて、さらに早くなる。
これは“今キタ”ってこと…?

「心臓、ヤバイ」

あたしの言葉のあとに少しの沈黙があって、あたしを再度抱きしめてユーイチが確認する。

「…ほんとだ」
「ヤバイ」
「なにが」
「ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ」
「…しつこい」

抱きしめられてた腕がゆっくり離れて、平常心が戻ってくるのを待つけど、そう簡単には戻らないらしい。
意識し始めると「なんて恥ずかしいことを!」と顔が真っ赤になりはじめるのがわかる。

あたしから離れた手は腰に回って、頭一つ分くらいの距離。
見上げれば、無表情なユーイチがあたしを見下ろしてる。

まさか、こんな空気で、このタイミングで自覚するなんて意味わかんない。
でも、このドキドキは間違いないと思う。

心の準備ができてない。
それでもソラ姉との約束だから、自分の気持ちに正直に。

「あたし、ユーイチが好きだ」

ユーイチは一瞬だけ目を見開いたあと、今まで見たことない柔らかい笑顔を見せて、あたしにキスをした。

それは優しくて温かくて、触れたところから“愛おしい”が溢れ出してた。





H22.06.22



完結。

2017.02.17