いつも通り当たり前のように助手席に乗り込むと、目に入ったのは可愛いキャラクターのハンカチ。
明らかに女物のハンカチ。

あたしが知ってる中の祐介の友達や知り合いでこんなハンカチを持つような女の子はいないし、女の人もいない。
じゃあ、誰の?って話になるのが普通。

しかも助手席じゃん、助手席。
あたしが座ってる、この助手席。

夢みがちすぎかもしんないし、くどいけど助手席。
夢見すぎかもだけど、彼氏の車の助手席はあたしだけのだって思わせてくれたっていいと思う。なのに、女物のハンカチってどうなの、これ。

「あー、今日お前と同じ歳の女を飯に連れて行った」

あたしの手の中にあるハンカチに気付いた祐介がそう言った。
どうやら知り合いのようで店に来たその子は一緒に買い物に来てた友達に放置されて、可哀相に思った祐介がご飯を食べさせたらしい。

知り合いの女にそこまでする?普通。
いくらあたしと同じ歳だとしても構いすぎだと思う。

聞いてたら段々腹が立って視線も外を見てしまう。
これが祐介を調子づかせることやってわかってんのに。

「なに、妬いてんの?」

面白そうに言いやがって腹立つ。
この状況でその質問するのは完全に遊ばれてるってこと。クスクス笑って楽しんでる。
この信号を曲がれば家に着くのに結局カップルらしい会話も出来なくて新たな疑惑を発見しただけ。

年上の男って包容力があって優しくて、てイメージがあったけど、こんな風に遊ばれるなら年齢なんて関係ないじゃん、と思った。

好きだから伝えたいし傍にいたい。
たまにはキスだってしたいし、二人の時間だってほしい。
甘えてくれなくてもいいから甘えさせてほしいと思うのはあたしだけで、祐介はあたしにそういう事を求めたりはしないから思うようにうまくいかない。

「ナリの女だよ」
「・・・は?!」

色んな事を脳内で駆け巡らせてて祐介の笑いすら聞こえなかったのに、今のだけはクリアに聞こえた。

「ナリって青山くん?」
「そう。あのナリを名前で呼ぶ女」

うっわ、それヤバイじゃん!と言おうとしたら思いっきり急ブレーキかけられて、前に飛んでシートベルトで止まったものの首が危うく鞭打ちになりそうになった。
びっくりして放心状態の視界に映ったのは公園で、ここが家の前だと気付いた。

「あ、着いた。じゃなくて、びっくりすんじゃん!!安全運転を・・・?!」

今日のあたしは喜怒哀楽が目まぐるしい。

感情がコロコロ変わって忙しい奴だと思われてもしょうがないと思う。しかも今は今日一番だと思う。

ハンドルに両腕を置いてもたれてるのに視線はあたしに向けられてる。
大声で話すあたしをただ見てる。だから言いたい言葉も詰まって言えなくなった。
そして、その視線から離せなくなった。

「機嫌、直った?」

腕で顔を半分以上隠れてて見えないけど、唯一見える目が笑ってる。
機嫌直ったかどうかなんて聞かれてもわかんない。
イライラしたって次の空気に流れて流されて、結局イライラしてたことすら忘れてしまう。

あたしが怒ってても祐介に笑いかけられたら反射的に笑っちゃう。
それが一日に何回あるかわかんないし、今日なんかいつもより色々ありすぎて、いつの話をしてんのかわかんない。

「いつの話かわかんない」

あたしの正直な気持ちなのに笑われる意味がわかんない。
大人の男ってわかんない。

「浮気だと思われたら面倒だし」

やっぱりわかんない。
それがどういう意味なのかわかんない。

それは祐介があたしに対する不安だととっていいのか、仲が拗れるのが面倒なだけなのかわかんない。
遠回しに表情されても全然わかんない。

「あたしのこと、好きなの?」

わかんないから聞いてみても、

「どうだろう?」

疑問で返してくる。

「あたしが聞いてんだけど」

もう呆れて物も言えない。
こんな男を好きになったあたしが悪い。
そう腹をくくんなきゃやってけない。

あたしから離れるつもりはないし、離れる度胸もない。
最終的には遊ばれるしかないんだと思う。

答えなんて最初からもらえると思ってないから溜息吐いてドアに手をかけると、その手を止められる。
振り返ったらその手はあたしの後頭部へ移動した。

「明日」
「空いてるよ」

祐介からのお誘いのパターンは掴めてる。だから言い終える前に答えると苦笑した。

「19時に駅」
「何かあるの?」
「さぁ?」

言うだけ言ってやっぱり答えてはくれない。
本当に腹立つ。

「拗ねてんの?」
「別に」
「でも好きだろ?」

何に対してかわかんないけど。
このやり取りが好きなのかって言われたら殴ってやろうって思うけど。

でもそんなことも含めて祐介が好きだから仕方ない。
祐介の傍にいる間はどうしようもない。
そんな祐介が好きだから。

「好き」

好きだよ、と言い終える前に引き寄せられる。

感じる温もりは祐介以外は考えられないし、祐介以外はいらない。
優しく甘く包み込んでくれるのは祐介の気持ちだと思うから全て祐介に預けた。



この先も別れがこない限りはこの男に振り回されっぱなしなんだろうけど、最後にこんな甘い褒美があるなら我慢してやろうかな、と思った。



end