溜息一つ吐き出して、携帯片手に握り締めて、リダイヤルの一番上をコールする。
早々と出た声に安心する。
《久しぶりね、どうしたの?》
「うん、声が聞きたくなった」
変な子ねー、と笑うソラ姉は相変わらずで、なんだか暖かくなった。
ソラ姉なら教えてくれるかもしれない、そう思ったから電話をした。
寂しかったから掛けた、というのが本音だけれども。
「今日ね、ハジメくんが部屋を出たの」
そう言えば今日だっけ?と言うあたり、ハジメくんから聞いてたのかもしれない。
やっぱりソラ姉は傍にいなくても、いつまでもみんなの姉貴らしい。
《その割には落ち着いてるじゃない》
「え?落ち着いてるってどういう意味?」
ソラ姉が何を言ってるのかわからなかった。
あたしはいつも落ち着いてるよ、と言うと《そういうことじゃないわよ》と苦笑された。
《泣きながら電話を掛けてくるんだと思ってた》
あぁ、そういうことね。
ようやく意味がわかって同じように苦笑した。
あたしを泣いてばっかりの子供だと思ってるに違いない。
ユーイチもソラ姉もあたしを子供みたいに思ってるんだ、と自分の行動を恥ずかしく思った。
《もうユーイチに慰めてもらったあとなのね》
冷やかすように言うソラ姉に「は?!」と思わず言うと、《あら、隠さなくてもいいのよ》と笑われた。
「違う!」
《違わないって。あたしが何も知らないと思ってるの?》
見透かされたような言葉に押し黙ってしまい、肯定してしまった。
ソラ姉がからかって言ったわけじゃないのはわかる。
そういうことがあったのは事実。
さっきまであたしはユーイチの腕の中にいた。
他の人からそう言われると見られていたみたいに恥ずかしくてしょうがない。
それから今までの話を教えてくれたソラ姉は全部知ってた。
みっちゃん達が出て行ったあと、ソラ姉の傍にずっといてソラ姉が泣きつかれて眠ったと思って泣いてたこと。
その時タイミングよく部屋に入ってきたユーイチに自分はベッドに寝かされたけど、ユーイチはあたしの傍から離れずにいたこと。
「寝てたんじゃなかったの?!」
《抱き上げられたときに起きちゃって、あたしの部屋でイチャイチャするあんた達を背後から見てたわよ》
イチャイチャなんかしてない!そう言いかけて、家にユーイチがいることを思い出して口を噤んだ。
《あたしの時はずっと泣きやまなくて、寝ながら泣いてたって言ってたわよ?》
どんだけあたしが好きなのよ、と笑うソラ姉に「ユーイチが言ったんだね」と言うと、《あたしが聞き出したのよ》と笑ってた。
あの時は本当に悲しくて寂しくて、夢でもソラ姉が離れていって本当に悲しかった。
朝、目覚めると目が開かないくらい腫れてて、妖怪みたいな顔になってたことを思い出す。
ユーイチはそんなあたしをまた気遣ってソラ姉に報告してたのか、と思ったら本気で申し訳ない気持ちになった。
これで確信した。あたしのせいでユーイチは迷惑してる。
「もうすぐ一人暮らしになるよ」
《え、それ本当?》
ずっとクスクス笑ってたソラ姉が一変して声色を変えるから、何か変なことを言っただろうか、と考えた。でも別におかしなところはないし、と話を続けた。
「まだ家探ししてないけど、そうなるよ」
《ユーイチは?ユーイチとは話したの?》
少し困惑したように話すソラ姉に「まだだけど」と言うと、溜息交じりに《そうなの》とため息混じりのように言った。



