「超寒いんだけど」

残暑が厳しかった今年の秋も11月も半ばになってくると、さすがに冬風が冷たい。
やっぱりマフラーかストールを持ってくればよかった、と後悔した。
今からアイスを食べに行くっていうのにこんなんじゃ指先も冷え切ってしまう。
今日は戒めとかじゃなくて自傷行為だな、そう思いながら歩き始めたとき、肩に何か掛けられた。

「そんな格好じゃ風邪ひきますよ」
「なにしてんの?」

振り返ると1時間程前に挨拶を交わしたはずの三沢くんが立っていて、あたしの肩に掛けられたのは三沢くんの温もりが残ったコートだった。

「紗夜さん待ってたんです。飯、行きましょう」
「え、ちょ、ちょっと待って!行かないって断ったわよ」

そんなあたしの言葉なんて無視して腕を引っ張ってぐんぐん歩き進める三沢くんは「止まって!」「ちょっと待って!」と言っても止まってはくれず、「腕、痛いんだけど!」という一言でようやく止まってくれた。

「あ、すみません」

なんだか申し訳なさそうな顔に文句が言いづらくて堪えた。

寒空の下1時間も待ってまで誘う理由はなんだ?て本気で思う。
今後の予定は聞かないし、連れて行くのも強引だし、あたしが先輩だって忘れてるのか、それとも完全になめられてんのか、そのへんはわかんないけど名前で呼ばせ続けてるのがダメだったんだと自分を落ち着かせた。

あたしにはこの後アイスを食べに行くっていう予定があって、それは誰にも見つからないようにしなきゃいけないっていうルールがあるんだから早めに撒かないといけない。でないと今日一日を終えた気がしない。

「あたし、食べに行かないって言ったよね?女の人を誘うなら他にもいっぱいいるじゃん。連れて行ってくれる先輩だっているよ?なんであたしなの」
「俺は紗夜さんがいいんです。だから待ってたんです」

無意識なんだろうけど、こっちが恥ずかしくなるようなセリフをさらっと言えちゃうのはなんでだろう。
ひねくれてるあたしにとっては確かに効果的だけど、それ故に流されちゃうほど素直ではないし、むしろその裏を読んじゃって不振に思える。

「あたし、寄るとこあるから」
「駅前のアイスクリームですよね?」
「なんで知ってんの?!」

思わず否定することも忘れて肯定してしまった。
誰にも言ってないし、行くときは誰もいないか確認しながら入ってるし、噂だって聞かないし、もちろん三沢くんを見たことなんて一度もない。

あまりの衝撃に自分が言った言葉に気付いたときには遅かった。動揺したあたしをいいことに三沢くんは誰にも言ってませんよ、と笑った。
その言葉に今日は逆らえない、と思った。

「今から行くんですよね?俺もいいですか?」

断ってもついて来るくせに、そう思ったから返事もせず肩に掛けてくれたジャケットを返して歩きだした。