帽子のおじさん

当然、私はその男を視界に入れ無いように通り過ぎようとした。


2、3メートル離れているが、男がこちらを目でおっているのが何となくわかった。


何見てんだよ。


強気なまき夫が内心で威嚇。


「すんません。」


と、男がついに声をかけてきた。


まき夫の存在に気づかれてしまっただろうか。


「はい…?」


弱気な自分に戻り、振り返る。


「マスク、あります?」


と、律儀に敬語で尋ねた。


何故マスクが欲しい?


煙草吸ってる癖に。


普通にマスクを持ち歩く学生などいると思うか。


いや、私は持っているのだけど。


読心術と人の持ち物まで分かるのか、この男。


いやそんな筈はない。


「悪いね、突然。あるなら、欲しいんすけど。出来るだけ急いで。」



男は帽子を押さえつつ下向き加減で言った。


急かされつつ、私は渋々使い捨てマスクを渡す。


出来るだけ腕を伸ばして。


お人好しな自分に、まき夫が突っ込んだ。


こんな怪しいおっさんに何マスク1枚無駄にしてんだよ、バカヤロー。


だって、怖いんだもん。


マスク1枚で用が済むなら無駄にもするよ。