「………どーせ、お節介ですよーだ。」
「ああ、ごめん。あれは馬鹿にして言ったわけじゃないよ。確かに言い方悪かったな。」


素直に謝られると拍子抜けしてしまう。



「べ、別に気にしてねーし。」
「…………そ。」


チラッと盗み見た横顔は優しく微笑んでいた。
コイツ、いつも笑ってたらいいのに。


「それ、」
「…………?」
「俺、その表情(カオ)好きだな。」


え?あれ?俺、今、何言ったーー?
何かめちゃくちゃ恥ずかしいこと口走った?


「わあああああああ!今のなし!忘れて!」
「…………ふ、はは、ははははは」


突然腹を抱えて笑い始めた日椎に、俺はポカーンと口を開けた。


「ははは、もう本当にアンタ面白すぎ。怒ったり笑ったり慌てたり心配したり、本当に忙しい奴だな。」


笑いすぎて日椎の目尻に涙が浮かんでる。
そんなに面白いことか………?


「はー、笑った。こんなに笑ったの久しぶり。」
「そりゃー、良かった。」
「悪かったよ、そんなに拗ねるな。」
「拗ねてねーし。」


そっぽを向けば、また笑われる。


もういい、放っておこう。

大学の最寄り駅までには坂を一つ越える。
腕時計に目を落とす。
時間的にはちょうどいい感じ。

坂道の頂上、上がりきった先の景色が俺のお気に入り。

夕日が染める町。


「いい眺め。」


昔から夕日を見るのが好きだった。

夕日を見てると癒されるって言うか、心が洗われるっていうか……とにかく大好き。


「はぁー、やっぱここから見る夕日って最高。」
「…………」
「俺、夕日好きでさ。町がオレンジ色に染まっていく姿って、凄く幻想的に思えるんだ。」
「…………」
「ってガキ臭いか。やっぱ馬鹿にする?」
「…………いや、いいんじゃない?」


てっきり馬鹿にされるかと思ったのに、優しい声音に肯定されて頬が緩んだ。


「へへ、ありがとう。」
「………アンタ、無防備だな。」
「え?」
「…………いや、どーいたしまして。」



それから少しだけ夕日に魅入って、駅までの道を再び歩き出す。


「日椎、どっち方面?」
「かわし台」
「じゃあ逆だ。」
「……そ。じゃあね。」

改札を抜けていく背中に、またな、と声を掛けた。

振り向いてはくれなかったけど、ひらひらと片手が上がった。

少し胸が高鳴った。