図書室は利用する人が少ない。


あのあと何とか講義には間に合ったものの、強烈な睡魔に勝てなかった俺は結局三嶋の餌食になった。


ったく、酷い目に遭った……。


ため息をつくと、静かな図書室にはよく響く。


今日は早めに帰ろう。
こういう日は家にいるのが一番だ。


確か経済系の本棚は奥の方に………。


各棚に掛けられた分類板見ながら奥へと進む。


少し開けた所には、机と椅子が設置され、本を読むスペースになっている。

普段人が座っていることなんて、ほとんど見ない。
けれど今日に限っては、座っている背中が見えた。


あれ、人がいるなんて珍しい………って日椎じゃん!


近づいた背中は間違いなく日椎のもの。


関わらないって言ったそばから……何でコイツもここにいるんだよ。


まあ、幸い向こうは気付いてないし、このままUターンして帰ろう。

相手に気付かれないよう注意を向けながら、足を返そうとして、動きを止めた。


随分熱中してるなぁ……何読んでんだろ。


それはちょっとした興味本位。


返そうとした足を戻して、静かに日椎に近づく。


まぁ、でも後ろから覗き見するのも気が引けるよな。

そう思って俺は日椎の隣に立った。


でも日椎は本から視線を上げず、こちらを見ようともしない。


気付いてない?
どんだけ集中してんだよ……。


確か法学部とか言ってたから、難しい法律の本でも読んでいるんだろう。
なんて適当な予測をたてながら手元を覗く。

「……………ぇ、」
「ーーーー!?」


思わず出してしまった声に、日椎は慌てて顔をあげた。

それから開いていた本を勢いよく閉じる。


声を出してしまったのは、予想とだいぶかけ離れた本を読んでいたから。


「ご、ごめん……」


日椎の反応に反射的に謝罪の言葉を述べる。


「………何?」


読んでいた本を鞄に片しながら、日椎は相変わらず抑揚のない声で言う。