立っていたのは、ちょうど話題にしていた張本人。

な、なんでコイツが俺に話しかけてきてんだ……?


「ど、どーも。な、何のご用でしょうか?」
「………吃(ドモ)りすぎ。偶然見つけたから、今朝名前聞くの忘れたし、聞いとこうと思って。」


ああ、そっか。
俺は一方的に知っているけど、コイツは俺のこと知らないんだっけ。


「山碼 馨(ヤマメ カオル)、経済学部2年。」
「……日椎 楓(ヒスイ カエデ)法学部2年。……アンタってさ、ウサギ好きなの?」
「……へ?」


唐突な質問に呆けると、日椎はポケットから何かを取りだし、俺の前に差し出してきた。


「随分可愛い趣味してんだな。」


意地の悪い笑みとともに差し出されたのは、今朝俺が渡したであろう絆創膏なんだけど。

それはとても可愛いピンク色のウサギが描かれている。

し、しまったぁぁぁぁ。
妹に持たされた方渡しちゃった……。



「いや、それは俺の趣味じゃなくて、妹の……」
「へぇー……」
「やめろ、そんな目で見るな。本当に妹の趣味なんだって!」
「そんなに否定すると逆に怪しいな。」
「だぁぁぁ、もう!」


くっそぉぉぉぉ、こんなやつに優しくなんてするんじゃなかった!


俺は差し出されていた絆創膏を奪い返し、それを日椎の口元に無理矢理貼り付ける。


「おー、可愛い可愛い。よく似合ってるぜ、そのウサギちゃん。せっかく親切に渡してやったんだから、ちゃんと付けとけよな!そして感謝しろ!」


嫌みたっぷりに言ってやった。
どうだ、人のこと馬鹿にしやがって。
有り難く受け取っとけってんだよ。

子供じゃないんだから、と珠時の呆れた呟きが聞こえたがこの際無視だ。

ふんぞり返る俺に対して、日椎は口元に貼られた絆創膏に触れ、妖艶に笑んだ。


「どうも、ありがとう?」


手の動きといい、口の動きといい………

なんかエロい!

なんでだ……
こんな可愛い絆創膏つけて、笑えるはずなのに……。
あれか、イケメンだからか!


「イケメン、許すまじ。」
「俺が笑うと兵器になるんだっけ?」
「……今朝の呟き聞いてたな?」
「聞きたくて聞いた訳じゃない。」
「や、やっぱりお前みたいにキラキラした奴は苦手だ!」