友達の家に遊びに行く……これって普通のことだよな。
どっちかと言うと俺の反応の方が失礼か。


「じゃあ来週でもお邪魔しようかな。」
「ん。妹にも言っておく。とりあえず出発しようか。」


そうだった。今日は今日で夕日見に行くんでした。


日椎は駅の改札に向かっていく。
この前みたく喫茶店に入らないってことは、ちょっと遠くまで行くのか?


「なぁ、結局どっちが好きなんだ?」
「何が?」
「色!」
「あー……別にどっちも好きじゃないかな。」


隣の日椎は興味なさげに答えた。


「何色が好きなの?」
「……特にない。あ、その切符ね。」


そそくさと切符を買って改札を抜けていく背中。


「あ、待ってよ」


と声を出せば、


「早くしろ。」


と笑って振り返ってくれる。


初めて日椎を見た日コイツを振っていたあの子も、


勇気を振り絞って告白していたあの子も、


遠巻きにキャーキャー騒ぐ大学の子達も、


きっと知らないだろ。


日椎がこんな風に笑って、こんな風に話して、こんな風に遊んで、こんな風に優しい奴だなんて。



「へへへ」
「………何をニヤついてる?気持ち悪い。」
「気にしない、気にしない。ちょっとした優越感に浸っているだけです。」
「………?」


優越感………

うん、なんか、これって………


独占欲みたいな………。



「………?今度は赤くなってる。忙しい奴だな。」


言いながら電車に乗り込んだ日椎は空いている席に腰を下ろす。
俺も隣に腰を下ろした。


「べ、別にいいだろ………。今日はどこまで行くんだ?」
「電車で30分ちょい先。あとは着くまでの楽しみだな。」
「えー、またぁ?」



日椎ってこう言ういたずらっ子っぽいとこあるよなぁ。


「山碼くん、電車では静かにな。」


人差し指を口に当ててジェスチャーする日椎さんの、なんて色気があることでしょう。

女なら喜んでぶっ倒れてるな。


「はいはい。」


仕方ない、日椎が口を割るとは思えないし、大人しく着いていくか。


電車が動き始める。
緩やかな揺れが睡魔を連れてくる。


「まだ掛かるから眠っていい。」
「ん………」

日椎の言葉で俺は瞼をゆっくりおろした。