「この先なんだ。」
立ち止まり日椎が指した先は、長い石畳の階段。
「………この上?」
「そ。」
涼しい顔して階段に足をかけた日椎の後ろで、俺は肩を落とした。
む、無理かも………。
「どうしたの?無理そうなら、背負ってやろうか?」
「い、いい!自分で上れる!」
「じゃあ頑張って。」
クスッと笑った声に、負けてなるものかと足を踏み出した。
先を行く日椎は足取り軽く、俺はと言えば段数を重ねるごとに足取りが重くなっていく。
「ちょ、日椎、待って」
「もうギブアップ?」
「少しだけ休ませろよ……」
半分を上がりきった所で俺は堪らず座り込んだ。
もー、無理。
「大丈夫?」
日椎も俺のところまで降りてきて、隣に腰かけた。
「お、お前見た目より体力あるんだな。」
「逆にアンタは見かけ倒しだな。その辺走り回ってそうなのに。」
「うるせー。」
これでも高校まではバスケ部だった。
自分でも思った以上に体力が落ちていて落胆する。
「はぁ………こんなところに一体何の用なんだよ。」
「楽しみはとっておいた方が頑張れるだろ?」
「けち……」
五分ほど休憩をして、再び上を目指す。
さっきまで前を歩いていた日椎が俺の後ろにつく。
「先行かないの?」
「うん。ほら、こうした方が楽だろ?」
そう言って俺の背中を押す手。
「そりゃ楽だけど、お前が辛いんじゃ……」
「平気だよ。ほら、もう少し。」
少し見上げた先には最上段。
「と、う、ちゃ、くーー!」
上がりきった瞬間、両手を掲げて達成感を味わう。
「よく頑張った自分!」
「大袈裟。山碼、こっちだよ。」
日椎に手招かれるまま、奥の森林に入っていく。
こんなところに何の用なんだろう……。
も、もしかして……何か良からぬことしようってんじゃ……。
「ここだよ、連れてきたかった場所。」
「ぇ………」
それは、森林を抜けた先。
目の前に広がるのは夕日のオレンジが染め上げた世界。