「…………いるんだろ、出てこいよ。」
日椎は振り返らず口を開く。
どう考えても俺に向けられている言葉だ。
仕方なく木陰から身を出し、日椎の隣に並ぶ。
「あー…ははは、バレちゃってた?」
「足音で分かる。」
「ごめん。聞くつもりはなかったんだけど……」
「知ってる。いつも間が悪いもんな。」
うっ………な、何も言えない。
「そうだ!日椎ちゃんと断ってたな。どういう心境の変化だよ?」
「…………アンタが、」
「俺が?」
やっぱ俺のお陰ってやつかな?
「………………………」
ちょっと間があって、日椎は何も言わずに歩き出した。
「え!?ちょっ、そこまで言ったなら言えよ!」
「………別にいい。」
「良くない、俺が良くない。すっごく気になる。」
歩き続ける日椎の隣に張り付き、ジーっと見つめる。
「…………しつこいな。」
「何とでも言え。」
「……………アンタが痛そうな顔するから。」
「へ?」
「………もういいだろ、講義遅れる。じゃあ。」
バタバタと駆けていく背中。
って俺もモタモタしてると遅れるな。
日椎とは逆の方面に向かって足を早める。
“アンタが痛そうな顔するから”って……………
なんだ、それ。
そんなの、全然、理由になってないし。