「へぇ〜ビビってる。結構カワイイじゃん、紀衣ちゃん」


いつもの戸田とは違いすぎて、もう何が何だかわからない。


わたしが出した両手を掴んだ戸田との距離は、10センチもない。


いじわるな表情をして、わたしの顔を覗き込んでくる。


(ち、近い………息が、かかって…)


熱くなるからだをどうすることもできず、わたしはそっぽを向いた。


「目ぇそらさないでよ、ちょっといいかな」


やや間があってから、「それ」は起こった。


「ちゅ………んっ……はぁっ」


かすかに漏れる艶がかかった声とともに、手に何かが触れる。


柔らかくて温かいそれは、彼の唇だった。


わたしの手に、何度もキスを落とす。


指先、手のひら、手の甲。


「っ……ちょ、待って!……なにやって…んぅっ」


抵抗しようとしたけど、今度は唇を塞がれた。


息ができなくて、頭がクラクラしてくる。


「……はあっ…はぁ、はぁ……んっ…もう、無理……やめて」


必死に拒むものの、両手はしっかりと握られて、力も入らない。


触れる唇は熱くて、ぴったりとわたしの唇に重なる。


「ごめん……ちゅっ………やめれない…っん……」


(謝るんなら、やめてよ!なんか、変になってきたし……)


ガクン、と足の力が抜け、その場にへたり込んだ。


それでも、彼はキスをやめない。


わたしを壁にもたれさせ、上から覆い被さる形でキスを続ける。


握られた手は絡み合い、恋人つなぎのように交わっている。


とろけそうになるくらいに甘いキス。


サウナの中にいるみたいにぼーっとして、彼のなすがままになっている。