「えーっと……ここがこうだから…」


戸田の家の間取りがよくわからなかったわたしは、自分の部屋を見つけられずにいた。


そこまで広いわけじゃないのに、どうしてもわからなかった。


同じ廊下を行ったり来たりしながら、間取りを把握すること数分。


ついに諦めたわたしは、最終手段を取ることにした。


(戸田に聞くしかないんだよなぁ……)


驚くことに、彼の部屋だけはしっかり覚えていた。


なぜかなんて、そんなこと考えたくなくて、ブンブンと頭を振った。


軽く拳を握って、深呼吸をして、薄い扉を叩く。


コンコンと軽い音が脳に響く。


(心臓の音、うるさいよぅ……)


バクバクとなり続ける音よりも大きく、ガチャリと扉の開く音が聞こえた。


少しダボっとしたトレーナーを身にまとい、無愛想な顔で出てきた彼は、すごく不機嫌そうだ。


「あんた、誰。ストーカー?」


学校の雰囲気と違いすぎて、一瞬フリーズした。


考えが追いつかなくて、しばしの沈黙が続く。


ストーカーストーカー……ストーカー?えっ、わたしのこと?!


聞いてないの?


しかもわたしの顔覚えてないの?!


どうしてかはわからないけど、ただただショックな気持ちが胸を貫いた。


「ち、違いますっ!隣の、希 紀衣ですっ。ストーカーじゃないです!」


(同級生なのに敬語って………)


タメ口をきけない自分に呆れつつ、両手を顔の前で広げて思い切りストーカーという言葉への拒否反応を示す。


すると、彼の顔は一変。


すぐさま驚きの顔に変わった。


「おまえ、そんなんだったっけ」


気の抜けた声は戸田らしくなくカッコ悪くて、なんだかこちらもびっくりしてしまった。


「あっ、学校ではいつもメガネかけてたから、かな?」


そこまで目の悪くないわたしは、学校以外は裸眼で過ごしている。


それで、わからなかったのかも。


でも彼は、


「いや、そうじゃなくて………ごめん、俺ヤバイかも」


急に謝り、顔を赤く染め上げていく。


え、ヤバイって………なに?


次の瞬間、わたしの視界は彼でいっぱいになった。