「お、お世話になります。希 紀衣です」
玄関を出てわずか10秒。
でも実際は、10分ほどかかってしまった。
とうとうこの日が来てしまった。
「そんな堅苦しい挨拶いらないわよ。もう長い付き合いじゃない」
優しく笑うおばさんは50歳には見えないほど綺麗で、これはいわゆる美魔女というやつだろう。
下駄箱の上には何かはわからないけど、綺麗な花が鮮やかに咲いている。
その隣にはハガキサイズくらいの写真立てが一つ。
幼い男の子が2人、寄り添っている。
その写真に思わず言葉が漏れる。
「……かわいい」
クスッとどこからか笑みがこぼれた。
それにハッとして、後ろを振り向く。
「かわいいでしょ、うちの子。紀衣ちゃんと涼は同級生だったわよね。もう1人の方は、もう成人してる、お兄ちゃんの響(きょう)」
その笑顔はまさに天使。
戸田はクラスの人気者でその笑顔と優しさが、男女ともに好かれている。
お兄さんの方はクールで、硬派なところが人気らしい。
いずれにしても、イケメン兄弟なことには変わりない。
でも、わたしはそんな彼、戸田 涼が嫌いだ。
自分と正反対な彼に、日々嫌気がさしている。
誰とでも笑い合えて、人に恨まれることとはまるで縁のなさそうな彼が、わたしに向かって笑いかけてくるたびに、心がキューって締め付けられる。
だから家が隣でも仲良くないし、今日ここに来るのも嫌だった。
「さ、紀衣ちゃん早くあがって。響は一人暮らししてて、わたしもちょっと出て行かなくちゃいけないの。涼は今部屋でゴロゴロしてるだろうから、なんかあったら涼に聞いてね」
「はい、わかりました。行ってらっしゃい」
とっさに落ち着きを払ってそう答えたものの、心臓の音がうるさい。
この空間にいるのはわたしと戸田の2人きり。
そんなことを意識したら、顔が熱くてたまらない。
「や、やだ。なんでこんな真っ赤になってんの、わたし」
下駄箱の向かいにある姿見で、そのゆでだこのような顔を確認する。
両手で頬を押さえ、深呼吸をする。
こうして、わたしの新しい生活が始まった。
玄関を出てわずか10秒。
でも実際は、10分ほどかかってしまった。
とうとうこの日が来てしまった。
「そんな堅苦しい挨拶いらないわよ。もう長い付き合いじゃない」
優しく笑うおばさんは50歳には見えないほど綺麗で、これはいわゆる美魔女というやつだろう。
下駄箱の上には何かはわからないけど、綺麗な花が鮮やかに咲いている。
その隣にはハガキサイズくらいの写真立てが一つ。
幼い男の子が2人、寄り添っている。
その写真に思わず言葉が漏れる。
「……かわいい」
クスッとどこからか笑みがこぼれた。
それにハッとして、後ろを振り向く。
「かわいいでしょ、うちの子。紀衣ちゃんと涼は同級生だったわよね。もう1人の方は、もう成人してる、お兄ちゃんの響(きょう)」
その笑顔はまさに天使。
戸田はクラスの人気者でその笑顔と優しさが、男女ともに好かれている。
お兄さんの方はクールで、硬派なところが人気らしい。
いずれにしても、イケメン兄弟なことには変わりない。
でも、わたしはそんな彼、戸田 涼が嫌いだ。
自分と正反対な彼に、日々嫌気がさしている。
誰とでも笑い合えて、人に恨まれることとはまるで縁のなさそうな彼が、わたしに向かって笑いかけてくるたびに、心がキューって締め付けられる。
だから家が隣でも仲良くないし、今日ここに来るのも嫌だった。
「さ、紀衣ちゃん早くあがって。響は一人暮らししてて、わたしもちょっと出て行かなくちゃいけないの。涼は今部屋でゴロゴロしてるだろうから、なんかあったら涼に聞いてね」
「はい、わかりました。行ってらっしゃい」
とっさに落ち着きを払ってそう答えたものの、心臓の音がうるさい。
この空間にいるのはわたしと戸田の2人きり。
そんなことを意識したら、顔が熱くてたまらない。
「や、やだ。なんでこんな真っ赤になってんの、わたし」
下駄箱の向かいにある姿見で、そのゆでだこのような顔を確認する。
両手で頬を押さえ、深呼吸をする。
こうして、わたしの新しい生活が始まった。
