大好きなきみへ、あの約束をもう一度




「おいおい、それはないぜ湊……」


しょぼんと落ち込んだみたいに、眉をハの字にする高橋くんに、私はギョッとする。


「湊、名前を呼ぶだけで、親密度はぐんと増すらしいんだよ!これも、『絶対に上手くいく恋愛コミュニケーション術』に書いってあってね!だから俺も海斗と呼ばせてもらうよ!」


「嬉しいっす!気軽に海斗って……おい、待て。今尚先輩、恋愛コミュニケーション術って言わなかったか?」


確認してくる高橋くんに、私は明後日の方向を見る。


「いやまさか、尚先輩って……男色の人?そっか、嬉しいってことは高橋くんも……」




クラスの人気者が男色……。

クラス中の女の子の悲鳴が聞こえてきそう。



「安心して、誰にも言わないから。ほら、友達もいないし、言いふらす相手もいないし……ね?」


「やめろって!気を遣うなって!俺は女が好きだっての!」



なーんだ、男色じゃなかったんだ。

まぁ、それは置いといて……。

私と親しくしたら、周りから白い目で見られるのに、どうしてわざわざ仲良くなろうとするんだろう。



『湊、湊が友達で、迷惑だなんて思う人はいないよ』



成り行きを見ていた早織が、私を励ますように声をかけてくれる。


だけど早織……。

私はクラスでは浮いてるし私の傍にいたら、高橋くんにも迷惑かけちゃいそうで……怖いんだ。


それに、私には早織さえいれば……。



『湊……』


「ごめんね……」



ごめんね、早織。

あなたに、私は心配かけてばかりだね。



「そうだぞ、湊。お前反省しろよ、そんで俺を早く海斗って呼べって」


「ええっ……」


何を勘違いしたのか、早織への謝罪を自分のものだと受け取った高橋くんが私に下の名前を呼ばせようとしてくる。


「な、湊ほら早く」


「高橋くん、なんでそこまでして呼ばせたいの?別に、名前なんて何でも……」


「よくねーよ、下の名前で呼ぶだけで、グンとお互いの距離が近づくんだぞ。尚先輩だって言ってたじゃん」



私に顔を近づけて、ニッと笑う高橋くん。


「それは、恋愛コミュニケーション術でしょ?」

「なんでもいいだろ、早く呼べって!」

「……はぁ、海斗……これでいいんでしょ」


意地でも呼ばせたいのみたいで、仕方なく海斗と呼ぶことにした。

言うまで負けてくれなさそうだし。

渋々海斗の名前を呼ぶと、海斗は満足そうに笑った。