「あ……海斗の家、近いの?」


聞きたいことはこんな話じゃないのに、私の口から出たのは海斗の家のこと。


『おう、湊の家から自転車すっ飛ばして10分くらいだな』



確かに、海斗の後ろには自転車が止まってる。

自転車飛ばして来てくれたんだ……。



「あ、危ないから気をつけてよ?」

『ははっ、仕方ねーじゃん、すぐに湊の顔見たかったんだよ』

「なっ……うぅ……」


なんたる、殺し文句……。

海斗は、何度私の心臓を止めかければ気が済むんだろう。

恥ずかしさに悶えながら、次に紡ぐ言葉を探していると、会話が途切れてしまう。


すると、電話越しに海斗が深呼吸するのが分かった。



『湊、こっち来いよ』


すると、海斗はスマートフォンをポッケにしまって、両手を広げた。



「っ……海斗!!」


――ガバッ!!

堪らず駆け出して、海斗の胸に飛び込む。


「湊……会いたかった……。はぁーっ、やっとこうできた」



すると、同じくらいの勢いで強く抱き締め返してくれた。

その温もりを感じたくて、ギュッとしがみつく。



「頑張ったな湊、よしよし」


「子供扱いして……っ、でも、嬉しいから許す……」


「ハハッ、許された!」


笑顔を交わせば、私達は自然と唇を重ねた。

触れるだけでこんなに幸せ気持ちになれる。


この世界には、辛くて絶望しかないのだと悟ったあの日。

私は大切な親友を失って、代わりに私だけにしか見えない早織の幻が現れた。


どんな形でも戻ってきてくれたことが嬉しくて、その早織だけがいればいい。


そう思ってたのに……。