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――ガラガラッ。
「尚先輩、遅くなりました」
3階にある図書室にやってくると、すでに到着していた尚先輩がカウンターにいた。
「やっほー、遅かったな湊ちゃん!……と、そちらさんは……」
笑顔で私を出迎えてくれた尚先輩は、眼鏡越しに高橋くんを見つめる。
「あぁ俺、高橋 海斗っていい……」
「おぉっ、本を借りに来たのかな!?いやぁー、それなら今日入ったこの新刊なんてオススメだよー!」
「……はい?」
高橋くんの言葉を遮って、尚先輩は興奮したように高橋くんに詰め寄った。
そっか、最近本に借りに来る人いないしね……。
尚先輩は、本当に本が好きで、オタク……いや、この図書委員の仕事にも誇りを持ってる。
「『真夜中に読みたくない!絶叫ストーリー50選!!』これはなかなかのホラー短編集なんだ!」
「…………ホラーものっすか、まぁ嫌いじゃないっすけど、今は遠慮したいっつーか」
昼間っからホラーは無いよね。
図書委員が図書室に入れる新しい本を選ぶんだけど……。
尚先輩が厳選する本のほとんどは、マニアックすぎてこっちが引くくらいだ。
「うーん、こちらがお気にめさなかったらこっち!」
「えー、なになに……『呪術師入門〜3分でできる簡単呪術紹介します〜』……」
高橋くんは本のタイトルを読んでげんなりする。
はは……3分クッキングみたいな感じで呪術学びたくないよね。
というか、こんな本が図書室にあること自体問題だよ。
そんな高橋くんに気づいてないのか、尚先輩は笑顔を絶やさない。
「どうどうー?今日からきみも呪術師だ!!」
「……おい、真木……」
この温度差にヒヤヒヤしていると、高橋くんはついに助けを求める顔で私を見た。
そうなるよね……。
私も初めて尚先輩の本の趣味を知った時は、驚愕したし。
というか……期待させてごめんなさい、尚先輩。
久しぶりの図書委員の仕事に興奮しちゃってるに違いない。
「尚先輩、高橋くんは……見学に来ただけです」
「あっ、そうなのか!?俺としたことが、早とちりしたみたい。すまないね、高橋くん」
照れくさそうに頭を搔く尚先輩は、黙っていれば黒髪好青年の爽やかイケメン。
「いや、いいっすよ。突然来た俺が悪いんで。つか、図書室初めて来ましたよ……」
物珍しそうにキョロキョロしてる高橋くん。
確かに、私も尚先輩に誘われるまで、この図書室に足を踏み入れたことは無かったな。
本は大好きだけど、図書室で借りるより、自分で買いたい派なんだよね。
「ありがとう!高橋くんはなんていい子なんだ!」
「はは……」
苦笑いの高橋くんに、私は尚先輩を見つめた。
尚先輩は、ちょっとみんなとズレてる所があって、いわゆる……変人。
イケメンなのにもったいない、残念な人だけど……まっすぐで憎めない人でもある。


