大好きなきみへ、あの約束をもう一度




***


――ガラガラッ。

「尚先輩、遅くなりました」



3階にある図書室にやってくると、すでに到着していた尚先輩がカウンターにいた。



「やっほー、遅かったな湊ちゃん!……と、そちらさんは……」



笑顔で私を出迎えてくれた尚先輩は、眼鏡越しに高橋くんを見つめる。


「あぁ俺、高橋 海斗っていい……」


「おぉっ、本を借りに来たのかな!?いやぁー、それなら今日入ったこの新刊なんてオススメだよー!」


「……はい?」



高橋くんの言葉を遮って、尚先輩は興奮したように高橋くんに詰め寄った。



そっか、最近本に借りに来る人いないしね……。

尚先輩は、本当に本が好きで、オタク……いや、この図書委員の仕事にも誇りを持ってる。



「『真夜中に読みたくない!絶叫ストーリー50選!!』これはなかなかのホラー短編集なんだ!」


「…………ホラーものっすか、まぁ嫌いじゃないっすけど、今は遠慮したいっつーか」



昼間っからホラーは無いよね。


図書委員が図書室に入れる新しい本を選ぶんだけど……。

尚先輩が厳選する本のほとんどは、マニアックすぎてこっちが引くくらいだ。



「うーん、こちらがお気にめさなかったらこっち!」


「えー、なになに……『呪術師入門〜3分でできる簡単呪術紹介します〜』……」


高橋くんは本のタイトルを読んでげんなりする。

はは……3分クッキングみたいな感じで呪術学びたくないよね。

というか、こんな本が図書室にあること自体問題だよ。


そんな高橋くんに気づいてないのか、尚先輩は笑顔を絶やさない。


「どうどうー?今日からきみも呪術師だ!!」


「……おい、真木……」


この温度差にヒヤヒヤしていると、高橋くんはついに助けを求める顔で私を見た。


そうなるよね……。

私も初めて尚先輩の本の趣味を知った時は、驚愕したし。

というか……期待させてごめんなさい、尚先輩。

久しぶりの図書委員の仕事に興奮しちゃってるに違いない。



「尚先輩、高橋くんは……見学に来ただけです」


「あっ、そうなのか!?俺としたことが、早とちりしたみたい。すまないね、高橋くん」



照れくさそうに頭を搔く尚先輩は、黙っていれば黒髪好青年の爽やかイケメン。



「いや、いいっすよ。突然来た俺が悪いんで。つか、図書室初めて来ましたよ……」



物珍しそうにキョロキョロしてる高橋くん。


確かに、私も尚先輩に誘われるまで、この図書室に足を踏み入れたことは無かったな。


本は大好きだけど、図書室で借りるより、自分で買いたい派なんだよね。



「ありがとう!高橋くんはなんていい子なんだ!」


「はは……」



苦笑いの高橋くんに、私は尚先輩を見つめた。


尚先輩は、ちょっとみんなとズレてる所があって、いわゆる……変人。

イケメンなのにもったいない、残念な人だけど……まっすぐで憎めない人でもある。