「前の湊ちゃんなら、早織ちゃんの幻覚が見えなくなったりしたら、もっと取り乱してたはず。それが、今は頭痛だけでとどまってる……」
確かに……。
早織を失った日、私は散々暴れたあげく、考えることも、動くこともせずに廃人になってた。
だけど、今は……倒れることはあるけど、ほとんどが頭痛だけで終わる。
前みたいに、全てがどうでも良くなるような……死にたくなるような追い詰められる感覚は無い。
「湊ちゃんには……その喪失感を埋められる、別の存在が出来たってことじゃないかな」
「それは、たぶん……」
私は、真っ先に隣の海斗の顔を見上げた。
すると、その視線に気づいた海斗も、私をまっすぐに見つめ返してくる。
海斗や……文子、尚先輩たちが、私の喪失感を埋めてくれてるんだと、すぐに分かった。
「湊ちゃん、もし……生きて行きたい人を見つけられてるのだとしたら、進むなら今なんだと思う」
「っ……でもそれは、早織を……置いてくことになりますよね……?」
私に、そんなこと出来ない。
たとえ、新しく大切な誰かが出来たとしても、早織のことも大切なの。


