「真木 湊さん、診察室にお入りください」



――ドクンッ。

なのに、安らぎの、時間はすぐに終わりを告げた。

ついに、私の名前が呼ばれてしまったから。



「ふぅ……」


「湊、怖いか?」


「……うん、ものすごく……」



何度も来てたはずなのに、どうしてこんなに、今、足がすくんでしまうほどに怖い。

少しでもいい不安を和らげたくて、カタカタと震える手を両手で握りしめた。


「湊が辛い時は、俺がこうして手、繋いでてやる」


「あっ……」



すると、海斗が指を絡めるように手を繋いでくれる。

強く握りしめると、そのまま手を引いて診察室へと向かった。


早織だけだと思ってた私の生きる希望。

今は、この手が……私の光だ。


***


「今日は、湊ちゃんと……彼氏さんかな、2人で来たんだね」


「はい……」


いつもは、お母さんと来てたはずの精神科外来。

突然海斗と通院してきた私にも、先生は変わりなく接してくれた。


「湊ちゃん、あれから早織ちゃんのことは見えてる?」



――ドクンッ。



あれから……早織は朝、玄関を出ても、姿を表さなくなった。

初めから、存在しなかったみたいに。