『湊には、私以上に大切な人が出来たよね』
私に背中を向けたまま、早織はそう言った。
早織……。
早織以上とか、そういうんじゃない。
だって、大切な人の優劣なんて、付けられないから。
「早織……早織だって、私にとってはかけがえない存在だよ?」
……なんでか、胸騒ぎがする。
どうして、こっちを振り返ってくれないの?
なんとなく、このまま早織がいなくなってしまうような気がして……不安になった。
『なら、もう一緒にはいられないよ』
「一緒にいられない……どうして……」
そんなの、嫌だよ……。
だって、今までもこれからも私達はずっと一緒だって約束したじゃん。
『湊には未来があって、私には……湊との過去しかないから』
「それはっ……それは、そうかもしれないけど……」
だけど、こうして早織といる時間は、私と一緒に生きてることにはならないの?
『湊は、少しずつ私を忘れて、新しく出来た大切な人達と思い出を重ねるんだ』
「それでも、早織のことを忘れたりしない!!」
だって、だって!!
私が、命懸けで助けたかったのはっ、早織が大切だったから。
失ったと思って、心を壊したのは……。
早織のことを忘れられず、死を受け入れられなかったからだよ!!
「どうして、そんなこと言うの……っ!?」
「おい湊、どうした?早織はなんて言ってんだ??」
泣きそうになって、声が震える。
そんな私に海斗が話しかけてきたけど、答える余裕が無かった。
早織が、早織がいなくなったら……。
そんな嫌な予感が私を追い詰める。
「早織っ!!」
視界がぼやけて、早織の姿を歪ませるから、余計に不安になった。
『ねぇ湊、気づいてた?湊、最近私の姿を意識しなくなったこと』
「え……?」
嘘、私が早織を忘れるだなんて……。
いや、本当にそうだった?
私が、早織のことを忘れるはずない。
だけど、毎日が楽しくて、恋する人もできた私は……。
確かに、早織のことを蔑ろにしてたかもしれない。


