「だから、人気のある本だけ移動でいい。どうせ、こっちの改装が終われば、本も戻さなきゃならないしな」
「でも先生、人気も何も、図書室で本借りる人なんて……」
「そうそう、どうせ借りるヤツもいないからな、本の厳選はお前達に任せるよ」
ええっ……。
先生が、借りるヤツいないとか言っちゃうの?
もう……なんだか、適当だなぁ。
「じゃ、よろしく頼むな」
そう言って、拒否も出来ず、私たちは、プレハブへと本を運ぶことになってしまった。
「ったく、夏休みだってのに生徒働かせるか、普通!」
「海斗、巻き込んじゃってごめんね?」
本の厳選は尚先輩と文子が、私達はその厳選した本をプレハブに運ぶことになった。
プレハブに向かって廊下を歩きながら、私は海斗に謝る。
「ん?巻き込まれたなんて思ってねーぞ?まぁ、色気はないけど、湊といれるならなんでもいいからな」
「えっ……あ、ありがとう」
あぁ……殺し文句だ。
ドキドキ、心臓が口から飛び出そう。
「おー、なんだよ照れてんの?」
「う、うるさいっ」
ニヤニヤしている海斗を睨む。
まぁ、この赤い顔じゃ迫力もないだろうけど……。
「可愛いんだから、仕方ないだろ。好きな子は虐めたくなるのが性だって……」
「はいはい、おばあちゃんが言ってたんでしょ」
「え、湊エスパーかよ!?」
「海斗、よくばあちゃんが言ってたって言うから」
今回もそうなのかなって思っただけ。
でも、当たってたみたい。
「なんか、こーいうの良いよな」
「こーいうの??」
「相手の言いたいことが分かるってやつ!だって、それだけ相手のこと理解してるって事だろ?」
――トクンッ。
確かに、そうかもしれない。
そう思うと、恥ずかしいのに嬉しい。
「俺のこと、そんだけ見ててくれてんだなって」
「っ……まぁ、好きな人……だし」
見ない分けないし、むしろ目で追っちゃうし。
好きな人なら、これが普通なんじゃないの?
「えっ、なに湊、もう一回言って!!」
「え??」
「き、聞こえなかった……つか、もう一回聞きたいっつーか!」
「き、聞こえてるじゃん!もう言わないっ」
恥ずかしくなって、フイッと視線を手元の本に落とした。
海斗ってば、こっちが恥ずかしくなるようなこと平気で言うんだもん。
これじゃあ……心臓がいくつあっても足りないや。
「はぁ……」
照れ疲れしたなぁ……。
あっ……これ、『よみがえり』だ。
手元の本を改めて見れば、見覚えのあるタイトル。
――ドクンッ。
早織……。
そういえば、今日は嫌な夢を見たな。
胸が嫌な音を立てて、さっきまでの幸せな気持ちが萎んでいく。


