『湊、そんなに自分を卑下しないの!尚先輩は湊のことを心から気に入ってくれてると思うよ?』
怒ったように頬を膨らませる早織に、首を傾げる。
私、そんなふうに気に入られるようなことしてない。
でも、尚先輩が私に話しかけてくれるようになったのは、確か……あの日からだ。
私は、尚先輩と出会ったあの日のことを思い出す。
高校2年の春、図書委員会に入る前のこと。
私はこの教室のある2階の窓から、こうして空を見上げていた。
そんな時、ガサガサと下の花壇に頭を突っ込む男子生徒が見えて、つい声をかけちゃったんだ。
「あの……何してるんですか、そこの人」
「え??」
すると、頭に草をくっつけて顔を上げたのが、尚先輩。
話を聞くと、尚先輩は3階の窓から、人間観察をしていたらしく、その時にメガネを花壇の中へ落としてしまったとのこと。
「えーと……」
普通に、人間観察してたことを突っ込むべき?
いや……面倒なのでやめた。
『湊、手伝ってあげようよ!!ほら、急いでっ!』
そのままスルーしようとした私に、早織は「早く!」と、言わんばかりに急かしてくる。
「仕方ないなぁ……」
早織が言うなら、そうしてあげたい。
どうやら私は、早織中心に生活してるらしい。
そんなことを考えながら渋々、尚先輩を助けると……。


