「もういいよ、海斗」
「おう、そっち行くな?」
いつもは強引なのに、こういう時は紳士なんだな。
それに、少しだけ笑ってしまう。
そんな私には気づかずに、海斗はカーテンを開けると、私のベッドの前にあるパイプ椅子へと腰掛けた。
「湊、もう……その、大丈夫なのか?」
「うん、ありがとう」
心配そうな瞳に見つめられて、私は小さく笑みをこぼす。
心配してくれたことが、こんなに嬉しいだなんて……。
その存在は、今まで早織だけだったから。
「……でも、まだ辛そうだな」
「え……?」
その手が、私の頬を優しく撫でた。
――トクンッ。
それに、心配が静かに脈打つ。
「なぁ湊……話せないならそれでもいいから……。でも、辛いとか、不安だとか……そういうのは、言ってくれ」
「海斗……」
「俺、お前のこと見てると不安になんだよ。時々、俺たちといても違う世界にいるっつーか……」
違う世界、か……。
あながち、間違ってないかも。
私は、早織と一緒に行きてる。
それは、海斗や文子がいるこの現実とは、絶対に交じることのない幻想の世界だから。


