「っ……ごめん」
「え、どうして??」
謝る私に、文子が不思議な顔をする。
そんな文子の視線から逃げるように、顔を背けた。
「ううん、何でもない……」
ジワリと滲む涙が、視界を歪める。
初めて、自分の見てる幻覚が、怖いって思った。
「湊、文子!!」
すると、プールサイドに駆け寄ってきた海斗が、私たちに手を伸ばす。
「文子、先に行って……」
「あ、うんっ」
そう言って、文子の背中を押すと、海斗が力強く引き上げた。
それをぼんやりと見つめながら、胸に渦巻くのはさっきの錯覚のこと。
私は……早織を失うくらいなら、幻覚を見続けてもいい、この病気も治らなくていいって思ってた。
だけど……本当にそれでいいの?
そのせいで、文子や、海斗……今ある大切な人たちを失うことになったら……。


