田中さんは、
今日はなかなか降りて来なかった。
風邪かと思ったけど、愛海が会いに行った。
少しイラついた。
こんなの、初めてで戸惑った。
ギュッと眼を閉じる。
ここにある優しさだって
愛海のように薄れていく。
優先順位で言ったら、下のほう。
皆自分の人生があるから。
それは分かってるのに、悲しかった。
「どうしたの?」
大家さんがニコッと笑いながら見てくる。
少し戸惑った。
嫉妬してるなんて、思われたくないから。
「……昨日、怖い夢見て」
繋ぎとめておくために
待つよりほか、できない。
しかも縛るなんて、
そんな権利がないのは分かってるから。
言えない。
田中さんのことが、
好きかもしれないなんて。

