10年愛してくれた君へ

「春兄!もう19時!!」


焦る私をよそに、春兄は『あー…』と、あくまでも冷静。


「気持ちよさそうに寝ていたから、起こすのかわいそうだと思ってそっとしておいたんだ。でも何だかうなされていたから、さすがに起こしたけど」


「そう…なんだ」


うなされていたなんて気付かなかったな。


「ごめんね、春兄の時間無駄にしちゃって」


「いや、そこにある本読んでたから、無駄ではなかったよ」


そう言って指差したのは本棚。


漫画も読むけれど、意外と小説とかも読んだりする私の本棚は、結構ぎっしりと詰まっている。



「あ、そうなんだ」


「眠そうなら帰るけど…また今度にする?」


「んー…今からやっても遅くなるだけだよね。来てくれて申し訳ないけど、今度にする」


「わかった」


優しく微笑み、立ち上がった。


部屋を出て行こうとする春兄に慌てて声を掛ける。



「は、春兄!」


「ん?」


「本当にごめんね?自分からお願いしておいて…」


「いや、全然。寝たい時は寝た方がいいよ」



迷惑かけたにも関わらず、怒ることはなかった。


春兄を見送り、しばらくして携帯に届いた春兄からのメッセージ。


【時間合わせられるから、俺はいつでも大丈夫だよ】


こんな時にも、優しいなぁ。


『ありがとう』と呟いて、すぐに返事を打つ。


【本当にありがとう!!いつかお礼させてね】


一人になった部屋。


短時間で自分の様々な気持ちが巡りに巡って不思議な感覚だ。


今まで春兄に感じたことのなかった感覚。