10年愛してくれた君へ




『…い、藍』


ここはどこだろう。


特に"ここだ"と断定できるような場所ではないが、春兄の声がしてぼんやりとする視界にキョロキョロと辺りを見回す。


後ろを振り向くと、春兄のシルエットが目に飛び込んだ。


『春兄!』


ボヤけていた春兄の顔が、少しずつ鮮明に見えてくる。


いつものように柔らかく微笑み、優しい目で私を見る。


『あの…さ、実は俺…』


ん?何?聞こえないよ…


春兄の口は動いているのに、声が聞こえない。



『ごめん春兄、聞こえなかったからもう一回言って?』


私がそう言うと、春兄は少し頬を赤らめた。


何で照れているの?



『…きだ』


『え?』




聞き返すと、今度は真っ直ぐ私を見て…





『…好きだ、藍』




春兄の姿は少しずつ遠ざかっていき、やがて見えなくなった。


その場に取り残された私。


春兄の言葉を頭の中で繰り返す。





今…何て??