「春兄はどっか行くの?」


「ちょっと友達のところにな。エントリーシートの書き方教えろってうるさいんだ」


へー、エントリーシート。それがどういうものなのか、就活なんて私にとってはまだ未知の世界だからよくわからない。


やっぱり大変なんだな、就活って。


「春兄は優しいね」


「...そうか?」


無自覚だな。困っている人がいたら放っておけない性格だもん。


元々長男気質がある人だ。


「じゃあな、友達待ってるし」


「うん!またね」




少し歩いたところで立ち止まり、ゆっくりと振り返る。


春兄の大きな背中がだんだん遠くなっていく。




春兄のことは幼馴染として、とても好きだ。


小さい頃から傍にいたから私のことをなんでも分かってくれるし、頼りになる。


同じように私も春兄の全てを知っている。


そんなつもりだった。





でも、私は何も知らなかったんだね。



春兄がいつもどんな気持ちだったのか、その優しさの中に何を抱えていたのか。




それが分かるのは、ずっと先の話---...