席に着くなり、春兄が口を開く。


「実はさ、藍を誘うの結構迷ってたんだ」


「え?」


「彼氏できたの知っていて誘うのって、なんかイヤらしくない?」


そんなことはない。


いつも私を優先してくれる春兄。


春兄の意思で、こうして誘ってくれること、実は嬉しかったりする。



「春兄には...もっと自分の気持ちも大事にしてほしい」


心の声がポツリと漏れた。


春兄の視線がゆっくりと私に向けられる。



「あっごめん、あの...ほら、春兄はいつも私のこととか、他の人のことを第一に考えてくれるでしょ?だからたまには、春兄自身の気持ち、もっと出してほしいというか...もっと我儘になってもいいんじゃないかな?って」


「そんな、我慢とかはしてるつもりはないけどな」


「春兄はそう思ってるかもしれないけど。でも意識していないところで、気持ち抑え込んでることもあるよ、きっと」



ずっと傍で見ていた私だから、そう言える。


優しすぎるから、他人を優先して自分が少し損するくらいなら何ともないと思っているはずだ。