10年愛してくれた君へ

休日ということもあり、球場は人が溢れかえっていた。上空から見たらあまりの人の多さに息苦しくなるだろう。


近くにアトラクションやショッピングモールもあるから、野球以外の目的で来ている人もきっと多いはず。屈指のレジャースポットと呼ぶには相応しいか微妙だが、誰もが知るエリアだ。



「やっぱり開場直前ってめっちゃ混むな」


人波に飲まれる私たち。


警備員さんが頑張って誘導してくれているのだけれど、それも意味ないくらい押され、押され、そしてまた押される。



「...っ」


すると、春兄は私の手を握ってきた。


びっくりして見上げる。


「はぐれそうだから。ちょっと我慢してて」


”我慢”...


この人波に我慢しててって意味?


それとも、自分に手を握られているのを我慢しててって意味?


春兄はどんな気持ちでそう言ったのだろう。


私の少し前を歩く春兄の顔はハッキリとは見えず、表情がわからない。いつもなら、聞きたいことがあったら何も考えずに口にしていたけれど、何故かそれができなかった。


気づくと私も手を握り返していた。春兄だから。私と春兄の仲は河西くんも理解してくれているから。