10年愛してくれた君へ

映画館を出ると、辺りは薄暗くなっている。


「家まで送るよ」


「え、いいよいいよ!河西くんの家からだとちょっと遠いでしょ?」


申し訳ないと思い、断ろうとしたが、河西くんは私のそんな言葉を無視し、手を取って歩き出した。


「えっ河西くん?」


「...送るから。な?」


...なんだろう。


少し寂しそうな顔をしている。



手を引かれるがままの状態が続いた。


すると河西くんはそれに気づいたのか、スピードを緩めて私に並ぶような形になった。



「本当はさ、ちょっと嫉妬してる」


「...え?」


意外な言葉が耳に入る。


河西くんを見上げると、一瞬私と目を合わし、そして恥ずかしそうに逸らした。



「春兄さんと鵜崎。深い関係なんだろうな~って思うとさ、会ったばかりの俺なんてちっぽけな存在じゃんって」


「そ、そんなことっ」


「カッコつけて『野球行ってこいよ』なんて言ったけどさ、本当はちょっと妬いていた」


そんな風に思っていたんだ。


変わらない明るい声で言ってくれたから、全く気付かなかった。



「あ、でもだからって、明日行くのやめるとか言うなよな?毎年行ってたんだろ?だったら行かないほうがおかしい!」


心配かけないようにか、笑顔を向ける河西くん。


「俺ともたくさん遊んでくれるって言ったもんな?だから俺はそれでいいんだ!」


本当に、優しい人だ。


春兄とはまた違ったタイプの優しさ。




「うん、ありがとう!」



手を繋いだままゆっくり歩いた。


河西くんの新しい一面を見ることができ、そして優しさにも触れることができた、そんな一日だった。