今までたくさん甘えさせてもらった分、次は春兄に甘えて欲しい。


そう願いを込めて言ったが、春兄の口から出た言葉は予想外のものだった。



「藍は本当に優しいよな」


え、私が…?


きょとんと春兄を見つめる。


「優しいのは春兄だよ?」


これだけは断言できるもん。


春兄は、どこの誰よりも優しくて、温かい人だ。


その発言にどのような意図があったのか気になったが、すぐに話題を反らされる。



「そうだ、好きな奴とは上手くいってるのか?」


「あっ、えっと…進展はないけど楽しく喋ってるよ!」


「そっか。藍にそんなに想われるなんて、そいつは幸せ者だな」


「あははっ!またまた〜春兄ってば〜」


春兄の肩を軽く叩くと、春兄も笑った。


いつもと同じ、穏やかな時間だ。





車は目的地の近くまで来た。


それらしき生徒たちもチラホラ見受けられる。



「割と早く着いたかもな」


「そだね!春兄ありがとうね!」



駅のロータリーで車が停まる。


春兄は運転席から降りて後部座席のドアを開く。

それに続いて私も助手席から降りた。



「あれ?鵜崎」


「河西くん!おはよう」


声を掛けてきたのは河西くんだった。


私の声に春兄も顔を上げる。


春兄に気づいた河西くんは、『もしかして!』と目をキラキラさせた。


「この人が春兄さん?」


そうか、二人は初対面だった。


「そう!自慢のお兄ちゃん!春兄、私のクラスメイトの…河西くん」


春兄は何かを察したのか、『あぁ』と小さく声を漏らし、河西くんに笑顔を向けた。


「藍がお世話になってるみたいで。藍の…幼馴染の、竹内春人です」


年下の河西くんにも丁寧に挨拶する春兄。