10年愛してくれた君へ

あの女性の正体も分からないまま、様々な思考を巡らせていると、私の目線に河西くんが気づいた。


「…あの男が気になんの?」


「え!?いや全然!全然違う!」


むしろ気になっているのは女性の方で!


再び二人に目をやると、空気が重たく感じる。


何の話をしているのかな?



小声で喋っているのか、口が動いているのは分かるのだけど、声が聞こえない。



メニューを開いたまま、選ぶのをよそに耳を集中させた。微かに聞こえてくる、女性の声。



「…だから…あなたとは終わりにして欲しいの」


ん?別れ話か?


これは修羅場になりそうな予感だ。


「前言ったよな、他に好きな男出来たんならそいつ俺の目の前に連れて来いってよ」


うわっ、こっわ!彼氏こっわ!


「連れてこようとしたけど…どうしてもダメだって」


「んだよ、ビビリか?そいつ」


「ち、違う!ハルトはそんなんじゃ!」



え、今なんて?


ハルト…って、春兄?



でもそうだよね、今朝春兄と一緒にいたのは間違えなくこの人だ。


彼女が言うハルトは…春人、春兄だ。



「へー、お前の好きな男、ハルトっていうのか、一生忘れる気しねーわ」


ねぇ、これってまずいんじゃない?


春兄に知らせた方が


そう思い、おもむろに携帯を取り出し、メッセージアプリから春兄の名前を探すが、手が止まった。


…そもそも、なんて言えばいい?


どうして私があの人を知っているのかってなるよね。


今朝二人が口論しているのを見ました、なんて言いづらい。でもこのまま放っておいたら、春兄が巻き込まれてしまう気がする。


しかも、あのチャラ男…怖い。


穏やかな春兄とは正反対のタイプだ。





「どうした?鵜崎。決まった?」


「あ、うん!今選んでる!」


携帯をカバンにしまい、再びメニューに目をやった。