10年愛してくれた君へ

「藍、何か悩み事でもあるのか?何度声掛けても中々気づかなかったから」


「え、そうだったの?ごめん気づかなかったみたい」


「やっぱりなー。藍は昔から考え込むと周りの声が耳に入らなくなるからな。遠くから何回も声掛けるの恥ずかしかったんだぞ」


「あははっ!新しい春兄のいじめ方覚えちゃったかも!」


「おい」


頭を少し乱暴に撫でられた。


乱暴ながらも大きな手で包み込まれている感じがするのは、きっと春兄だからだろう。



「で、藍は何を悩んでたんだ?」


「んー、恋の悩み、と言いますか…」


「恋…」


春兄の顔から少し笑顔が消えた気がした。


だけどそれも一瞬のことで、すぐに笑顔が戻った。


気のせいかな?




「そっか。藍も高3だもんな」


「何それー子供扱いしてるでしょ」


「いや?藍から恋愛の話聞くことってなかったから、そう思っただけ」


そう言えばそうかもしれない。


悩むほど本気の恋をしたことがないからかな?


春兄にはたくさん悩み事を相談してきたけど、恋愛の相談はなかったかもな…



「で、新しいクラスにいい奴でもいたのか?」


「えへへ」


「何だよデレデレじゃん。とりあえず歩くか」


春兄と私は並んで歩く。


春兄は自然と道路側に立ち、私と歩幅を合わせるようにゆっくり進む。