10年愛してくれた君へ

---数ヶ月後。


第一志望の企業から内定を貰うことができ、俺は無事に就活を終えた。


そんな俺の元に、再び南からの連絡。


またか…と思いながら、メッセージを開く。



【私、桜岡高校に教育実習に行くことになったの!】


なんだ…ただの報告か。って、桜岡高校!?


藍が通っている高校じゃないか。




まさか二人が接点を持ってしまうことになるなんて予想もできなかった。


いや、だけど受け持つクラスはどうなるかわからない。


南は藍のことを知っているし、藍も南を知っている。


藍のクラスを任されなければ、藍は南が教育実習に来ていることなど知り得ないはずだ。


俺が藍に言わなければいいだけの話。



【そーなんだ。頑張れよ】


特別反応を示すわけでもなくそう打った。


【冷たいわね。付き合ってた時もそのくらい冷たかったら、私も燃えてたのに】


何を言っているんだ?南が燃えたらますますやっかいなことになっていたはずだ。


結局そのメッセージには返信せず、そのまま携帯を放置した。





とある日、藍がようやく勉強に目覚めたようで、俺は手助けに家庭教師をすることとなった。


バイトでその経験はあったから、少しは役に立てるかな…?




『解けなくてもいいから、とりあえず目は通しておけ』と伝え、当日藍の家に向かう。



「こんにちは」


「あら春人くんいらっしゃい。藍だいぶ前に帰って来てるから、そのまま上がってちょうだい」


藍の部屋のドアをノックするが、反応がない。


「藍?入るぞ?」


そっとドアを開けると、机に突っ伏した藍の姿。


寝ているのか?


参考書を開いているところを見ると、なんとか目を通そうと頑張ったが、睡魔に襲われてそのまま負けてしまった…というところだろうか。


静かな藍の部屋に漂う優しい空気。


藍のいる空間は、どうしてこんなにも柔らかいのだろう。




自然と笑みがこぼれ、本棚から小説を1冊借り、藍の横でそれを読み始める。


藍の吐息とカチッカチッという時計の針が動く音だけが聞こえる。



「…落ち着くな」


無意識に口から言葉が漏れた。