10年愛してくれた君へ

「どうして別れちゃったの?春兄がフられたって言うのは前に聞いたけど」


「藍は知らなくていい話だよ。これは俺の問題だから」


そう、これ以上藍は何も知らなくていい。


藍が思う"春兄"ではなくなってしまうから。


俺の過去、藍に話せるはずがないんだ。


そんな思いで言ったが、藍には伝わっていなかったみたいで…


「もしかしてまた子供扱い?私だってね、相談とか乗れるんだから。春兄が何か大変なことに巻き込まれないか不安だから、その元カノのミナミさんとのこと、私も知っておきたい」


違うんだよ、子供扱いなんてしているつもりはないんだ。


俺たちの汚れた関係性に、藍は相応しくない。




「知らなくていいこともある」


「どうして?私は春兄に色んなこと話して来たよ?だから春兄も…」


「もうやめてくれ!」


耐えられなくなり、つい怒鳴り声を上げてしまった。


藍にこのような態度をとったことは今までなかったのに…



藍との優しい時間を、南という存在に邪魔されたくなかった。


それはまるで、真っ白な布に黒い染が広がっていくよう。


「は、春…兄?」


…ごめん、藍。


俺、藍が思うような優しいやつなんかじゃないよ。





無言のまま車を走らせた。


別れ際の藍からの『ありがとう』に反応もせずにそこから去る。


なんて酷いことをしてしまったのだろう。




藍の恋愛や南とのこともあり、自分がおかしくなっているような気がした。


こんなの俺らしくない…




俺の膝の上で、藍から貰ったプレゼントが、ポツンと寂しそうに存在していた。