10年愛してくれた君へ


すると、藍は気まずそうにポツリと呟いた。


「…ミナミさん」


「…え?」


胸騒ぎがした。ミナミなんて名前の子はいくらでもいるはずだ。しかし、今の俺はその名前に過敏に反応してしまう。



「あ、あの私…今朝見ちゃって。春兄と女の人が揉めてるの。それで…その後ショッピングモールでご飯食べてたら、たまたま私たちの隣にその人と、男の人が座ってて。なんか、別れ話?みたいなことしてて」


「…」


藍の言っていることが耳に入らなかった。


藍と南は決して交わることのない関係だと勝手に思い込んでいた。


こんなにも目まぐるしくこじれていくなんて…想像を絶する。


「男の方が、『別れたいならお前の好きになった別の男連れて来い』って言ってて。そしたら、ミナミさん…あ、男がその人をそう呼んでたんだけど、ミナミさんがハルトがどうのこうのって言ってたの聞いたんだ。ハルトって、春兄のことだよね?」


俺たちのことに藍を巻き込むわけにはいかない。


真っ直ぐで純粋で素直で…だから藍には俺と南の過去に触れて欲しくなかった。


だけど、何もかも隠すのは間違いな気がして、俺たちの関係性を告げた。


「元カノなんだ」


「…え?」


藍が見たという場面のことをしっかりと説明した。


気にしすぎて俺のために何か無茶をしようとするのではないか心配になり、過去にあったことまでは話さなかった。