10年愛してくれた君へ


一度家に戻り、車を出す。


気分を変えようと一人でドライブに出掛けた。


順調に進んでいた生活に、突然南が現れた。


もやもやする気持ちを振り払うかのように車を走らせた。



何時間が経った後地元に戻り、本屋に寄った。


今日は、読んでいる小説のシリーズの新刊が発売される日だ。


目的の物を買い、店を出ると、藍の姿が目に入る。


声を掛けようと藍の方に向かおうとした時、携帯にメッセージが届いた。







【春兄、今家にいる??】


メッセージは藍からだった。


不思議なことに、藍からのメッセージだけで、今日あった嫌なことを全て忘れてしまうくらい、優しい気持ちになる。



【前見てみ】



そう送ると、藍はパッと顔を上げる。



「春兄!!」


「よっ。どっか行ってたのか?」


俺の顔を見るなり、藍の顔はぱぁっと明るくなった。


本当、可愛いな…




「うん、いつものショッピングモール行ってたの。春兄は?」


「俺は車で出掛けていてその帰りにそこの本屋に寄ってて。そしたら藍見かけたから声かけようとそのまま来たんだ」


「そうなんだ!あのね、春兄に渡したい物あるの」


「渡したい物?」


「うん」


何だろうと思いながらも、とりあえず家まで送ってやろうと車に乗せた。


「これ、春兄に。お誕生日おめでとう!これ買いに行ってたの」


そう言って、笑顔でそれを差し出してくる。


プレゼント?そうか、この前藍が聞いてきたあれか。


その気持ちが嬉しくて、愛おしくて、自然と笑みが零れる。



「開けていいか?」


「うん!あ、でもメッセージカードは帰ってから見てね?恥ずかしいから」


「メッセージカードもあるの?誕生日メッセージはくれたのに、ありがとうな」


藍が選んでくれたプレゼントのラッピングを丁寧に外していく。


中に入っていたのは、ペンケースだった。


丁度今使っているのがボロボロになってきていたと藍に伝えたが、俺の好みにピッタリのものが贈られて、自分のために一生懸命考えて選んでくれたのだと思うと今すぐ抱きしめたくなった。

もちろん、そんなことはできないのだけれど。


何度も『ありがとう』を言っていたみたいで、藍に笑われた。


一人で買い物に行ったのかと問うと、恥ずかしそうに『好きな人と』と答える藍。


好きな人…そういえばそんなこと言っていたっけ。


きっと藍は人並みに恋くらいしてきたはずだ。


そういう話はあまりしたことなかったからよく知らないけれど、それでも付き合うことはなかったはず。


だから今回もそうなんだと思っていたが、そうか、二人で買い物していたのか。


「…あー、そうなのか。楽しかったか?」


気持ちを悟られないように、平静を装う。


「うん!何だかドキドキしっぱなしだったもん!春兄のプレゼント買って、ご飯食べて…」


嬉しそうに話す藍。


本当に好きなんだな…そいつのこと。


少し寂しさはあるが、藍が幸せならそれでいい。