10年愛してくれた君へ



就活は順調に進んでいく。


もちろん選考に落ちた企業はいくつかある。


だけど、日に日に成長していくような自分にわくわくする気持ちの方が大きかった。



「竹内さん、あなたの就職活動の軸はなんですか?」


ある企業の2次選考。


最後の質問として面接官に問われた。



「私の就職活動の軸は、自分が10年先、そこで働いている姿を簡単に想像できない企業であるかどうかです」


面接官の目がパッとこちらに向いた。


「…ほう。普通、何年先のビジョンが明確であると言うと思いますが。弊社で働いている自分を想像できるという答えが一般的では?」


これ俺にとっての賭けだった。


少しハズレたことを言って面接官に印象付ける。


あえて的外れなことを言っているわけではなく、これは紛れもなく俺の本心だ。



「もちろん私もそう思います。しかし、それは自分にとっての理想でしかなく、これから様々な事業を展開していく御社で働くには、社員の柔軟性も問われると思います。将来性があり、急成長中の御社で成長する自分を簡単に想像できては、向上心を欠いてしまいます。目標を持ちつつ臨機応変に対応し、自分の可能性を広げることができる…そんな企業と出会うことができたと思っております」


「…君みたいな人は初めてだ」


黙って俺の話を聞いていた面接官の顔には、最初にあった緊張感のある表情は消えていた。


「また、会えることを祈っているよ」


「ありがとうございます!」



事実上、2次選考通過ってことか…


勝負に出てよかった。