10年愛してくれた君へ

それから俺は、南と会う時には藍に声を掛けるのはやめた。


今自分が付き合っているのは南なんだ。


南だけを見よう、そう決意した。





あれは高校の昼休み、中庭のベンチに二人で座っているときのこと。


「春人はどこ行きたい?この時期だと、やっぱりプールとか水族館とか?」


夏休みに南と遊びに行く先を決めていた。


嬉しそうに色々なスポットをネットで調べて来たという南に、俺は『お前の行きたいところに行きたいな』と言った。


その言葉が気に食わなかったのか、南は持っていた携帯を俺に投げつける。


「私は春人の行きたいところ聞いてるの!!」


携帯が当たった部分がジンジンと痛む。


中庭を通る学生がチラチラとこちらの様子を伺っているのが分かる。


南はすぐに我に戻り、落ちた携帯を拾って謝った。



「…ごめん、春人」


「いや…じゃあ、水族館に行こうか。ここだと屋内だから、涼しいよ」


「うん」


ようやく笑顔を見せてくれた。


ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、南はとんでもないことを言い出した。


「…春人ってさ、襲ってこないよね」


「え?」


急な話題転換に頭が追いつかない。


何の話をしている??



「いや…男なのにさ。ガツガツ来ないというか…どっちかと言うと、春人って肉食系だと思ってたんだけど」


「何が言いたい?」


「…今までの男はもっと私を求めて来てたのに、春人はそれがない。春人からは愛情を感じない」


自分なりに愛情表現をしていたつもりだったから、そう言われショックを受けた。


"愛"の受け捉え方は、人それぞれ違うんだ…