普段から藍には優しくしていたつもりだが、いつも以上に優しくした。
別に無理をしているわけではない。
好きな子にずっと笑顔でいてほしいから、そう接していた。
藍のことを優先し、藍が欲しいと言った方を与え、喜ぶ藍を見て俺も嬉しい気持ちになる。
藍との間に流れる時間はとても穏やかで、優しくて、心地が良かった。
"好き"…
もしそう言ったら、藍はどんな顔をするのだろう。
喜んでくれるのか?それとも、困る?
「春兄春兄!ヒーローごっこしよ!」
もう、こんな風に俺に笑顔を向けてくれることはなくなるのか?
俺にとって藍は居て当たり前の存在で、きっと藍もそう思っているだろう。
もし、この気持ちを表に出してしまったら…今のこの関係は崩れてしまう?
成長と共にそのような考えが強くなっていき、同時に藍への気持ちを自分の中にしまい込むようになった。
そして、この気持ちをかき消すように、俺は高校で彼女を作った。
告白して来たのは向こうからで、元々よく喋る方だったから、特に断る理由もなくそれを受け入れた。
彼女は高橋南。
学校内で1番の美形とも言われている子だ。
スタイルも良くて頭も良い。
入学して何人もの男から告白されたという噂も耳にしていた。
そんな子が俺に告白してきたのは正直驚いた。
「まさか竹内くんが告白OKしてくれるなんて思わなかったな〜」
まだお互いを名字で呼び合っている頃、ぎこちない雰囲気が漂う。
何せ初めての彼女だ。
どう接すればいいのか、よくわからない時期でもあった。